『モチベーションが跳ね上がるサンダルの話』でサブカル!

魂のサンダル

 

 

女はサンダルを3週に渡って探していた。


とはいえ、季節は真夏の直前。今から買っても遅くはない。女が求めるサンダルは限定1000個のサンダルであり、さして栄えていない地元の街にはあるはずがなかった。


女は3週に渡って休日に都会に繰り出したが、どうも見つからない。それもそうだ、このサンダルは世の中に1000個しかなく更に特徴がある。
それは履いた者のあらゆるやる気を跳ね上げてくれるというものだ。


それは巷では魂のサンダルと呼ばれている。


ネットでは既に手に入れ、それを履いた者のレビューや噂が飛び交っていた。

やる気が出て、休日の朝に3時間もランニングをした者。やる気が出て、一週間で語学を習得した者。やる気が出て、平社員から会社の社長に就任した者。最早これは嘘だろうと思われる噂が飛び交っていたのだ。
テレビのニュースでもその現象が特集されていた。


女はこのサンダルがどうしても欲しかった。
女は何もかも先延ばしにする癖があったのだ。学生の頃からテストにおいても前日になるまで勉強のやる気が起きない。就職活動もやる気が起きず、親戚の会社にコネで入ったぐらいだ。

女には何かを計画的に頑張るという力が不足していた。しかし、今まではそれで辛酸を舐めたことはなかった。


だが、最近社内が英語を公用化し始めたのだ。遂に女にピンチが訪れた。

英語などからきし出来ないため、今や閑職に追いやられそうなのである。それなのに女は英語を学ぶやる気が起きない。これは女の先天的な性格的特徴なのだろう。


しかし、このままでは会社をクビになってしまう。たいした資格もない女に次の仕事のあてはなかった。女は英語を身につける為に魂のサンダルを探していたのだ。


ある日、その瞬間は訪れた。何気なく見ていたフリマアプリに魂のサンダルが10万円で売られていたのだ。

さすがに10万じゃ、このオカルト的なサンダルを買う者は中々出てこない。しかし、女は違った。大枚をはたいて魂のサンダルを購入したのだ。

後日届いたサンダルは、見る分にはただの黒く特別感のないものであった。それはどこかスポーツサンダルに近い。

女はビジネスカジュアルにそぐわないことを承知で、そのサンダルを毎日履き続けた。


一週間後、女は社内において、英語で日常会話を流暢にこなすことに成功していた。


一ヶ月が経つとビジネスにおける英語も板に付き、閑職からは程遠いエリート部門に配属されるようになったのだ。女は今やバリバリのキャリアウーマンである。


季節が変わろうが女はサンダルを履き続けていた。サンダルがなければ、この地位から転落してしまう。私がこの地位にいるのはサンダルのおかげであると考えていた女は、家にいる時もサンダルの裏を拭いて履いていた。


一年が経つと、女は海外を股にかけ仕事をする国際的なキャリアウーマンとなっていた。『サンダルのビジネスウーマン』と各国の新聞で掲載された程だ。女はとても有名になった。


何もかもが上手くいき、女はやる気に満ちていた。仕事から帰れば勉強をする。朝はランニングをしてから出社。女は理想の生活習慣を身に付けていた。


サンダルを買って、2年が経った頃女は帰り道、側溝に足を掛けて転んでしまった。

サンダルの皮が大きく剥がれた。いくら修繕しても元には戻りそうになかった。


女は遂にサンダルを失ってしまったのだ。


女は仕方なく、季節とシーンに合った靴を履くようになった。


それから3年後、女は政治家として外交的な仕事を精力的に続けていた。

 


女にはもうサンダルは必要なかったようだ。