『キャロルとの会話』でサブカル!

「私はあなたから見れば、もういい大人かもしれないけど、私は私のことをそうは思わないわ。18の頃と比べて内面的変化がないとは言わないけれど、あなたの歳と比べたら成長しているのか甚だ疑問だわ」

 

「僕みたいな学生と同じような精神年齢だなんて、どう考えても信じられないよ。あなたはとても大人に見えるし、いわゆる『高嶺の花』という言葉がしっくり来るぐらい距離を感じる」

 

「あなたはまだ若いからそう思うだけよ。歳を少し重ねただけで、その人の本質が変わることなんてないと思うわ。人が成長したり、その本質を変えてしまったりするのは、ある大きなきっかけや出来事によると私は考えてるの」

 

「あなたがそういうのならそうなのかもね。僕は少しばかり、嫌なことが続いて心の中にある何かがガラッと変わってしまった覚えがあるよ。成長してるかは分からないけれど、きっとあなたが言ってることはそういうことなんでしょ」

 

「あなたは成長しているわ。人の些細な痛みが分かるでしょ。重い荷物を抱えた人に助力を申し出る優しさが備わっているじゃない。そういうものは手痛い経験をしていないと中々身につかないものよ」

 

「そうかな。確かに人には優しくなれたかもしれない。けれど、自分にも甘くなった気がするよ。無理をしなくなったっていうのかな。いや、無理が出来なくなったのかもしれない。余計に頑張ろうとすると、脳なのか心なのか分からないけれど、やめろって叫ぶんだよ。僕は若者らしい無茶が出来なくなったんだ」

 

「あなたはとても慎重に丁寧に生きるようになったのね。確かにあなたの眼には陰があるし、弱さも感じる。簡単に社会にねじ伏せられてしまうような虚弱な精神が透けてみえる程にね。けれど、あなたのその眼は成長過程であると思うの。蝶になる前の蛹みたいに、あなたは今蓄えているのよ。あなたなりの強さを身につけて表現するためにね」

 

「あなたは比喩ばかり使って僕を混乱させる。けれど、今はすんなりと理解出来た気がするよ。僕はつまり蛹であって、後に強く羽ばたける力を宿してるわけだ」

 

「そうならざるを得ないでしょ。その虚弱な眼を社会に向けて生きていけるほど、生きることは容易くないことに気付き始めてるはずよ。あなたは強くならざるを得ない。あなただけでなく、私も、あそこにいるカウンターの奥のマスターも、あそこで2時間以上本から目を逸らさない青年もね」

 

「そうだね。そろそろちゃんと生きていかないといけないね。誤魔化しても誤魔化しても、僕は社会の重圧から逃げられないし、目の前には問題が次から次へと出てくる。僕はそろそろ、それらを無視する頑なさを維持できる余裕がなくなってきた」

 

「私とあなたの4ヶ月はもう終わり。私はあなたから、かつての葛藤を思い出させてもらった。あなたは私からモラトリアムを与えられた。そろそろ、それぞれの道を歩む頃ね」

 

「まさか、僕がある種の『ヒモ』として生活出来たなんて信じられない。面白い時間を過ごせたと思う。頭の整理もついたよ」

 

「私もあなたのような若い男と暮らすと思わなかったわ。とても大胆だと思う。あと24秒、あそこの掛け時計が零時を指す。そしたらあなたはこのバーから出なさい。勘定は気にしないこと。私たちの出会いが唐突であったように、別れも瞬間的であった方が心地良いわ。いいわね」

 

「さよならキャロル・ヴェロニカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーを出たら、そこは新宿か渋谷か、池袋だった。キャロルは10日後に蒸発した。