『小説「火花」ではなく「花火」を書いてみた』でサブカル!

ぼく『今年は何人犠牲になった?』

 

 

友『100を超えてから数えるのをやめた。そのぐらい犠牲者がいるってことだ』

 

 

ぼく『もうこんなの散々だ。毎年この時期になると気が狂いそうになる』

 

 

友『俺もだ。けど、毎年花火を見たらそんな気持ちもどっかに吹っ飛んじまう。俺たちはこのサイクルに慣れ過ぎた』

 

 

 

毎年7月18日。

 

東京のある街で行われる花火大会に参加出来るのは30人。

 

毎年多くの参加希望者が前夜祭で血を流す。

 

生き残った30人だけがこの世で最も綺麗と言われる花火を観ることが出来るのだ。

 

その花火は5秒間の一発のみ。

 

 

それを観た者は1ヶ月以内に確かな幸福を得られる。

 

 

 

ぼく『この大会をお前が教えてくれたのは高校生の頃だよな。俺たちは興味本位で参加して死にかけた。結局、俺はリタイアしてお前は花火を観れた。あの時、どんな幸福を得られたんだっけ?』

 

 

友『ああ、ちゃんと1ヶ月以内に校内で一番可愛い女の子に告られた。その日に無事童貞卒業だ。でもしばらくしたらサッカー部のキャプテンと浮気してたのが分かった。てか何回目だよこの話。あまり良い思い出じゃないんだ』

 

 

ぼく『ごめんごめん。あの時は随分羨ましかったなあ。だって本当に幸福が訪れたからな。驚いたよ。信じてなかったからさ』

 

 

友『あれからだよな。お前がこの大会に心酔したのは。俺は怖くなったんだ。本当に幸福が訪れたこともそうだし、あの花火の形があまりに歪で、しばらく頭から離れなかったんだ』

 

 

ぼく『だってお前は5秒間の花火がどんな形をしていて、どれ程綺麗なのか教えてくれなかったしな。なんとしても自分の目で見たかったんだ。確か、あの花火の綺麗さを理解するには精神的成長が必要らしいな』

 

 

友『その通りだ。童貞を卒業した翌年に参加した大会で観た花火は、息を飲む美しさだったからな。俺がこの大会に心酔したのはあれからだ』

 

 

ぼく『そんで今年は、勝ち方も分かってきたのかしっかり生き残ったよな。擦り傷さえする気がしなかった。お前が言うように慣れ過ぎたんだ』

 

 

友『その油断で死んだ熟練プレーヤーたちが何人いたことか。今回60年間無敗の槍使いの爺さんが、初参加の高校生にやられたのは驚いたよ』

 

 

ぼく『あれは油断というより、単に歳のせいじゃないか?』

 

 

友『まあそれもあるだろうが、その初参加の高校生ってのが只者じゃないらしい。あっ、あいつだよ。見ろ、あそこの橋の真ん中のベンチに腰掛けてる奴だ』

 

 

ぼく『あいつか。確かにここからでも恐ろしい殺気を感じるな。いったいあいつはどんな幸福を望んでるんだろうな』

 

 

友『聞いてこいよ。来年の対策の一環だ。あいつと仲間になっておけば今後のリスクを減らせる』

 

 

ぼく『それもそうだな。けれど俺は今年の大会を最後にしようと思うんだ。今夜、5秒間の花火を観たらそれきりだ。だから、来年以降のお前の死亡リスクを下げる為に話し掛けに行くよ』

 

 

友『なんだよお前...。一人じゃ生き残れるわけないだろ。お前がやめるなら俺も降りる。一人で続ける程心酔しちゃいないぞ。でもなんで、今年でやめるんだよ』

 

 

ぼく『年端もいかないガキが今回あいつにやられたんだ』

 

 

友『前夜祭の参加条件は幾つかあるはずだ。18歳以上であること、独身であること、その他にも色々ある。ガキは参加出来ない。てか待てよ。あいつって誰だ』

 

 

ぼく『お前が見つけた、橋のベンチに座ってる高校生さ。あいつは、まだ高校にも行ってないガキをやった。俺はその瞬間を見ちまったんだよ。ガキのポケットに入ってた財布の中に保険証があった。歳も分かったよ。それに病院で色んな機械に繋がれてるおっさんと、おそらく母親であろう女性が写ってる写真が入ってた』

 

 

友『そんなことがあったのか。つまりその子は、お父さんの病気が治る幸福を得る為に戦ったのか。しかし、何故運営側は歳を見分けられなかったんだ』

 

 

ぼく『少年の左腕には催眠者の印が浮き出ていた。検問の人間を催眠術にかけたんだ。とにかく、あの高校生を見つける手間が省けた。ここで待っててくれ』

 

 

友『待てよ。その感じだとあいつに復讐でもするのかと思うんだが、違うか?やめておけ。俺らじゃ返り討ちにあうだけだ』

 

 

ぼく『分かってるさ。ただ、あいつに自分がやったことを知らせてやるんだ。そしたら、きっと罪悪を感じて花火を観るのをやめるだろう。あいつが花火を観て幸福を得たら、少年が不憫だ』

 

 

友『お前の気持ちは分かる。けど、前夜祭に参加した以上全員敵だ。戦わなきゃやられる。それにあいつだって少年が18以下だと分かっていたわけじゃないだろ?』

 

 

ぼく『普通なら分かるさ。明らかにガキだったんだよ。参加者だってその子を意識的に避けていた節があった。前夜祭開始1時間経って、少年が生き残ってた理由もその為なんだ。それにお前は戦わなきゃやられるっていうけど、息の根を止めることはないだろう。俺たちは殺生は一度もしないポリシーを持って戦ってきたじゃないか』

 

 

友『それは俺たちのポリシーだ。他の前夜祭参加者には関係ない。皆んな幸福の為ならなんでもやる。そんな奴らが参加してるんだよ。お前は予想以上に慣れ過ぎて平和ボケしてるんだ』

 

 

ぼく『なんでも言えばいいさ。とにかく俺は行くぞ。お前は邪魔するなよ』

 

 

友『ふざけやがって。俺も行く』

 

 

 

橋の真ん中にあるベンチに腰を掛け、奇跡の花火が上がる時を待っていた高校生に彼らは近づいていった。

 

 

口火を切ったのは友の方だった。

 

 

 

友『おっおい。お前、ガキをやったらしいな。そのまま花火を観て幸せになろうってか。ふざけるなよ』

  

 

高校生『なんだよお前ら。ガキをやった?なんのことだ。俺はジジイしか狩ってねえ。そもそもガキなんて一人もいねえだろうが』

 

 

ぼく『何とぼけてんだよ。明らかに年端もいかないガキをやったろうが。見てたんだぞ』

 

 

高校生『待て、思い出した。もしかしたらあいつはガキだったのかもしれない。左腕に催眠者の印が刻まれたジジイがいたんだ。俺はジジイ専門で狩ってたから躊躇はなかった』

 

 

友『...てことは少年は催眠術を使って自分をジジイに見せていたのか。検問時なら分かるが、前夜祭中にそんなことする必要があるかよ』

 

 

高校生『おそらく、モラルの問題だろう。俺は初参加だが、この前夜祭にはそれなりに暗黙のルールが存在していると感じた。俺は例外だが、若い参加者は老齢の参加者をやらない。若いやつは若いやつ同士でやり合う。それは老齢者をやる良心の呵責から来るものだろうな。だからそのガキはその特性を生かしてジジイに化けた。しかし、生憎俺は例外だったわけだ。化けたことが裏目に出たのさ』

 

 

友『じゃあ少年は催眠術を使い、対峙する人間に良心の呵責を感じさせるような見た目に化けて、生き延びていたのか』

 

 

ぼく『...知るかよ。それでも、それでもお前が少年をやったのは事実だろうが。あの子はお父さんの病気を治す為に戦ってたんだ。それに比べて、お前は何を望んでるんだ?どうせ女の子と仲良くなりたいとか、金が欲しいとかそんなことだろ?ふざけんなよクソが』

 

 

高校生『そうか。そのガキも苦労してんだな。悪いことをしたよ。俺も必死だったからさ。俺は余命三ヶ月の病気持ちだ。死神が鎌を構えて少しずつ近づいて来るのが分かる。その死神を追いやるには花火を観るしかないと思ったんだ』

 

 

友『そうか...すまない。こいつも勘違いしてたんだ。俺たちはもう行くよ。邪魔したな』

 

 

 

 

ぼくは逃げるようにしてその場を立ち去り、友が呼んでくる声を無視して走り続けた。

 

 

 

しばらく走って歩いてを繰り返してガードレールに腰を掛けた。

 

 

 

背後では何回も聞いたことがある花火の音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼくは5秒間、ひたすら下を向いていた。